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『笑点8Kスペシャル』が映画テレビ技術3月号に掲載!

2016.03.01 制作技術

昨年11月の『日本テレビ4K野球中継のすべて』に続き、『笑点8Kスペシャル』が映画テレビ技術3月号に掲載されました。

地上波・レギュラー番組の8K収録は、おそらく世界初!
なぜ、笑点が選ばれたのか?4Kとは違った担当者の試行錯誤の連続! 
などNiTRo技術者の8Kへの取り組みをご紹介いたします。

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(株)日テレ・テクニカル・リソーシズ 笑点8Kスペシャル 技術概要

今井 正

                                        


【はじめに】

 ㈱日テレ・テクニカル・リソーシズ(以下、NiTRo)では、4K番組はこれまで数多く手掛けてきたが、8Kとなると未知の世界であり、同軸ケーブル72本(図1)という古いイメージ故に、現実的なものではないイメージを持っていた。
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     図1 昔見た8Kカメラのイメージ       写真1 一昨年の8K撮影風景

しかし、一昨年見学したNexTV-F主催の8K撮影会で、以前のモデルよりかなり小型化され、光カメラケーブル1本でCCU(Camera Control Unit)と接続できるまでに進化したカメラ(写真1)を見て、俄然興味を持ったのである。そんな中、昨年夏、NiTRo社内で8K番組制作の実現性について検討が始められた。現状、NexTV-F所有の8K制作機材で制作するに際し、カメラ・レンズはもちろん、冷却ファンノイズの程度や、音声5.1chサラウンドの効果を含め、最適なコンテンツは?、に至るまで詳細な検討を行った。また、8Kをイメージしつつ、4K機材でのテスト撮影も並行して行った。

今年開始されるBSでの4K・8K試験放送を見据え、技術的ノウハウの蓄積を主な目的としているため、今後に向けて非常に重要な意義を持つプロジェクトになると思われた。

肝心のコンテンツについては、日本テレビ各セクションのご協力をいただき、最終的には、今年で50周年を迎え日本中の視聴者に愛され続けてきた「笑点」に決定した。実は、「笑点」は多くの番組が白黒放送であった1966年にカラー放送で始まり、初期にステレオ放送を採用し、デジタルVTRでの収録にもいち早く挑戦してきた歴史を持つ番組である。一昨年には「特別版」を4K撮影するなど、常に新しいことにチャレンジを続けており、今回も最新技術である8Kがここで運命のように結びついたのである。

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   写真2 後楽園ホールでの8K撮影風景

【撮影】
 去る1月9日、後楽園ホールにて「笑点8Kスペシャル」の撮影は行われた。(写真2)
この企画は、日本テレビが「次世代放送推進フォーラム=NexTV-F」の8Kコンテンツ企画募集に応じ、採択されたものである。結果、民放初となった今回の8K収録は、日本テレビ編成局、制作局、技術統括局の協力のもと、DIT(Digital Image Technician)をはじめ技術実務を NiTRoが担当した。今回はあえて8Kと比較できるよう、通常の笑点のHDカメラ4台と横並びに配置し収録を行った。8Kカメラは、NexTV-F所有の池上通信機製SHV-8000が2台、SONY製F65が1台の計3台体制。レンズはキヤノン製10x18BNAKSD、富士フイルム製HK5.3x75-m 、HP5x12-mの3本を使用した。

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     写真3  2台並ぶ8Kカメラ

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     写真4  SHV-8000               写真5  F65

 SHV-8000はCMOSセンサーを4枚搭載し、G1・G2・R・Bを使用したデュアルグリーンという方式で、カメラ調整の際は通常のRGBではなく、G1とG2を含む4信号を調整する必要がある。また、この方式は、信号データを非常に効率よく伝送できる、という優れた方式だが、我々が日常扱っているHD信号とは全く異なるため、当然ながら機器互換性はない。

 当日の笑点収録は2本撮りで、1本目が8k7.jpgHD収録、2本目が8K収録であったためHD中継車と8K用5tトラック(以下、8K VAN)を配備した。
 トラック内に8K収録基地を組み上げ、ディレクティング、カメラ調整の他、遠隔フォーカス操作・確認を行った。

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                             図2.配置図/布線図

8K撮影の大きな注意点の一つはフォーカスが非常にシビアなことである。通常、フォーカスはカメラマンが操作するが、8KカメラのVF(ビューファインダー)はHD解像度であり、カメラマンによるシビアなフォーカシングは厳しいと判断し、SHV-8000は8K VAN内でのVEによる遠隔操作とした。(F65はカメラマンが操作)

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 写真6 8K収録基地となった5tトラック  写真7 8K VAN内部 音声/ディレクター席

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 写真8 VEと収録セクション       写真9 VE席にフォーカスコントローラー 


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撮影に先立ち、机上で後楽園ホールの広さとカメラ位置、レンズのミリ数から入念な画角の想定を行った。本当にその画角が撮れるか本番当日まで不安であったがおおよそ想定通りの画が撮れた。
 カメラ3台でのパラ収録であり、タリーや送り返し映像がないため、各カメラの基本的な役割やサイズ、カット割りは事前のについて入念な事前打合せを行った。加えて、当日はコミュニケーション用にインカムラインを構築したことで、ディレクターからの的確な指示のもと、HDスイッチング収録とほぼ同様のクオリティが保たれた。

また、収録前日にはスタッフ一同、NexTV-Fの8K機材を管理されている ㈱NHKメディアテクノロジーに伺い、機材準備・最終チェックとともに様々なレクチャーを受けた。スタッフは、当初は慣れない機材に戸惑いと不安を感じていたようだが、この場で実機に触れ、事前に組み上げを経験できたことで不安も払拭され、当日は余裕をもってセッティングすることができた。

                    
                               図3.画角想定図

【収録】

 今回のパラ収録で使用したレコーダーはパナソ8k13.jpgニック製AJ-Z0300を2台、SONY製SR-R4が1台である。
 パナソニックのレコーダーは写真のようにラックに収納されており、収録メディアはカメラ1台につき名刺大のP2カード(64GB)が17枚必要である。このレコーダーには17台の小型P2レコーダーが組み込まれており、1時間強の収録が可能である。今回はP2カードを更に17枚用意し、2つあるスロットを使用してのリレー収録で2時間強の連続収録を行った。入出力は前記のように我々にはなじみの薄いデュアルグリーンという方式で、収録はH.264圧縮を使用したAVC-Intra 100Mbps、16時並列処理となっている。
 一方、F65にドッキングされたレコーダーSR-R4はスロットが一つであり、SR-Memoryは1TBのものを使用しても収録時間は24分となる。それを踏まえ、番組収録中のメディア交換のタイミングをどこに設けるか、番組の流れを大きく損なわないよう事前に制作チームと入念に打合せをして本番に望む必要があった。8k14.jpg
収録時の画のチェックは、4Kモニターを用いて行った。収録される8K映像とVEがチェックする4K映像、そしてカメラマンが見ているHD映像は、質感が全く違うため、カメラマンは画角に集中することとした。VEは目の前の4Kモニターに、8Kからダウンコンバートした4K映像、或いは、8Kから4K分切り出したドット・バイ・ドット映像を選択して監視しつつ、フォーカス操作も行うという多忙さであった。
SHV-8000は光カメラケーブルとCCUを使用してトラック内基地での収録、F65は現場でのRAW収録とした。

          

                        写真10 8KレコーダーとP2カード


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図4.映像系統図

【音声】

 音声は8Kでの臨場感を意識し、5.1chサラウンドでの制作とした。今回は現場でのミキシングは行わず、MA加工を前提に音素材の収音をメインとした。基本ベースはHD収録側のコメントMIXをもらい、5.1chオーディエンスマイク(DPA/5100)も8K用にセットした。また、バックアップ用に出演者のワイヤレスマイクを音声マルチレコーダーに録音した。
 Aカメ、Cカメの収録機であるパナソニックレコーダーAJ-Z0300は、音声を24チャンネル収録できるが、HDプロキシに立ち上がる音声は8チャンネルであり、Bカメの収録機であるSONY製レコーダーSR-R4は、音声(アナログ)2チャンネルのみであるため、MAに立ち上げる音声チャンネルは18チャンネルとした。
 これを基にMAで5.1chサラウンドを制作するため、事前に通常のHD笑点収録の際に音声のみ収音し、サラウンド化のシミュレーションと打合せを繰り返し、上記18チャンネルの音声とマルチ音声収録の要不要を決めていった。
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 写真11 シミュレーション中のMA(汐留 写真12 実際には渋谷のMA室で作業予定


  
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【収録音声チャンネル分け】8k19.jpg

【連絡線】

 HD収録と8K収録を同時に行っているため、各セクションとの連絡線は非常に重要となる。基本的な連絡線はカメラインカムと制作線は同一のものとした。現場を仕切る制作は1名であるため、HD収録と8K収録用のワイヤレスインカムを2台渡し、使い分けてもらった。HD中継車と8KVANの技術的な連絡線はHD中継車のICSで対応した。SHV-8000にはインカムラインが1系統あるが、F65にインカム機能がなく、当日セッティングの時間を考慮し、別途構築した。また、SHV-8000のフォーカスサポート用に技術ホットライン(カメラマン⇔VE(遠隔フォーカス))をクリアーカムで構築した。

【照明】

 今回、照明に関しても、8K対応を行った。後楽園ホールでの通常の収録は、2000LUX程度で行われているが、今回は8Kカメラの感度を考慮し、2500LUXまで照度を上げた。これにより、画面の周辺解像度も確保でき、被写界深度も程良い映像となった。これ以上の照度では、演者への影響と共にHDカメラの被写界深度が通常収録時と異なってしまうため、2500LUXを限度とした。
 撮影してみて感じた事は、超高精細のあまり照明の影のダブりが結構目立つこと、また、予想以上にフォーカスがシビアなことであった。しかし、それらとは引き換えに、非常に高精細な映像が得られ、歌丸師匠の目に映る照明の一つ一つまで分かる程で、8K高精細の実力を思い知らされたのも事実である。

【編集】

 8Kでのポスプロ作業だが、実はこの原稿を書き終えた後の作業スケジュールとなっている。
 現状、当社では8K編集システムを設備していないため、撮影でも御協力頂いた ㈱NHKメディアテクノロジーが管理・運用するNexTV-F所有の8K編集システムで主な作業を行なうことになる。
 3台の8Kカメラで収録された素材の中でSONY F65は8K超解像アップコンバーターで現像処理し、SHV-8000と同様にP2収録される。P2収録では8K映像と同時にHDのプロキシ映像も同時収録されるため、そのデータを使いオフライン作業を行い、そこで完成尺に追い込む。続いてHD編集でテロップ入れを行ない8K本編集時のガイドとする。
 3台のカメラで収録されたHDプロキシデータには、音声チャンネル数を最大限に活用し、後のMA作業で5.1chサラウンドを作り込むために必要となる音声素材を収録した。完成尺にしたオフラインデータからOMF(音声ファイルフォーマット)を書き出し、MAでは効率の良い作業で5.1chサラウンドを仕上げることができる。
 8Kの本編集に入る段階では、音声は5.1chで完成させ、8K用テロップも準備しておくことで、極力、8K編集にかかる負荷を減らそうと考えている。
最終的には、データをコピーしたLTOがNexTV-Fへの納品物となる。

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図6.ポスプロ・フロー図

【最後に】

 良いコンテンツ作りは、制作陣、技術陣のちから、思いが高い次元で融合してはじめて成立するのだと思う。今回の「笑点8Kスペシャル」も、お互いが協力し合ってこその"賜物"である。特に、制作陣には、大喜利の内容すべてを「8K=はち・けい」に引っ掛けるなど、台本から作り込んでいただいた。
 また、㈱NHKメディアテクノロジー様には文字通り、手取り足取り、いろいろと教えていただいた。
その他、ご協力いただいた関係各位すべての皆様に、紙面を借りてお礼を申し上げたい。
 我々は、これからも「見たい、が世界を変えていく。」を胸に、様々な新技術にチャレンジし、新たな「見たい・聞きたいコンテンツ」を追い求めて行こうと思う。