REPORT 現場リポート
さらに向こうへ ~映像の最先端~ 第1部『デジタルリマスターの世界』
『NiTRo SHIBUYAって一体どんな業務をしているところなの?』
そんな疑問に少しでもお応えできるように「映像に携わる仕事がしたい!」と思っているみなさんに昨今のポスプロ現場事情を自分の体験談をもとにお送りしたいと思います。
NiTRoの正式社名は「日テレ・テクニカル・リソーシズ」。
会社名に“日テレ”が入っているので日本テレビに関わる番組を作っている会社!という印象があるのではないかと思います。
しかしNiTRo SHIBUYAでは主に他局の4K、8K編集、ドラマや舞台、デジタルリマスター、ネット配信動画、商業施設用動画など多種多様なコンテンツを扱っていると共に最新の技術を活かしたポスプロ業務も日々行っています。
そこで、最近実際に携わったポスプロ業務を3回に分けて紹介したいと思います。
第1部 『デジタルリマスターの世界』
第2部 『12K!!? 海中360度VR映像』
第3部 『ピアニスト辻井伸行のグレーディング~貴重!生演奏体験~』
今回は第1部 『デジタルリマスターの世界』です。
『デジタルリマスターの世界』
この業務は最新のソフトと技術を駆使し、撮影によって生じた細かな粒子や、過去に放送されたSD画質の古い映像にあるノイズやキズを消したり、グレーディング(カラーコレクション)などを行い、HDまたは4K化して綺麗な映像に高精細化する作業です。
これまでに、過去に放送された「20年〜40年以上前の名作ドラマ」や「著名アーティストの貴重なライブ映像」、「シネマ」、「ネイチャー番組」など様々なジャンルの作品を高精細化しています。
この画像はSD画質(720×480)のサンプル映像で、高精細作業でよく見受けられる修復前の状態。
横に入ったキズやブロックノイズ、カメラゲインによるノイズ、色収差(R G Bズレ)などが分かります。また彩度が浅いために見づらく、コントラストも甘いため、これらを修復していきます。
修復の大まかな作業工程は
グレーディング(カラーコレクション) → ノイズ・キズ消し → 2K・4Kアップコンバート
となります。
■ グレーディング(カラーコレクション)
グレーディングとは、映像を希望する色の状態に加工する作業のこと。
NiTRoでのグレーディング作業ではハリウッド映画でも定番ソフトであるDaVinci Resolveを使用しています。
アナログ時代の古い映像は色域(可視領域)、bit数(色の階調)などが現在のデジタル映像に比べて低いため、画面の暗い部分が浮いて白っぽくなったり、黒が潰れて沈んでいたり、Chroma(彩度)が物足りなかったり、色被りなどがあったりするため、それらを補正していきます。
Before After
15年くらい前に自分のSDビデオカメラで撮った映像。色が浅く締まりがない映像をグレーディングしてみた
■ ノイズやキズの除去作業
次にカメラゲインやブロックノイズ、スクラッチノイズ、色収差による滲みやバンディング(階調飛び)などを修正していきます。
これは自分の目で確かめて見つけていくしかありません。搬入された映像を何度も見直して1カットずつ、専用ソフトとプラグインエフェクトを使用して消していきます。
映像のキズは1フレームほどしか表示されず、再生していると一瞬しか映らないのでチェックする時は瞬き禁止レベルです。
場合によっては何十個というキズをひとつひとつ消していかなければなりません。とても根気のいる作業になります。
■ アップコンバート
アップコンバートとは解像度を上げ、高精細化を図る作業です。
テレビの画面はpixel(画素)という細かな点が集まってできていますが、1画面のなかにどれくらいのpixelが入っているかで、画像の細かさが変わってきます。pixcl数は縦×横で表わします。
例えば解像度(横)720×(縦)480のSD画質を2K(1920×1080)や4K(3840×2160)にアップコンバートする際、pixelをただ単純に引き伸ばすと、画像が荒れたり、ボヤけてしまいます。しかし違和感なくpixelを補完してくれる専用ソフトを駆使してデジタル処理を施すと、画質を損なわず解像度を上げることで綺麗な映像にアップコンバートすることが可能になります。先端技術様々であります。詳しい説明は企業秘密のため省略させて頂きます。すみません!
(左)単純にSD画質の解像度を上げれば画質は荒れる (右)最先端技術で解像度を上げても画質がある程度保たれる
■ 過去の名作を蘇らせる!
テレビ局には過去に放送された何十年分もの貴重な名作が保存されています。
そんな貴重な映像作品を私たち技術者が最新のテクノロジーと自らの技を駆使して磨きあげることで、映像を見やすくするだけでなく、美しく蘇らせることが出来るのです。
Before After
何度も映像をチェックしたり、ノイズ処理やカラー補正など工程を積み重ねる作業は修復師の職人のようです。磨き上げた名作たちの喜びや感動を視聴者に送り届けていければと思います。
著者近影